January 29, 2004

キビヤック

イタリアンではアンチョビをよく使う。独特のコクと塩っ辛さ、私は大好きだ。
似たようなものが自宅の台所でも作れる、と聞いて興味深々、発酵食品について調べていたら、いつの間にか道草を食って、途方もないもののレシピに見入っていた。
カナディアン・イヌイットの伝統的発酵食品、「キビヤック」である。

アザラシのお腹を裂いて中身を食べたら、海燕を捕まえて、この中に丸ごと100羽も入れて、お腹を閉じて、土に埋めて、獣に荒らされないよう大きな石を乗せて置く。2~3年待つ。この間に乳酸菌が発酵する。アザラシを掘り起こして海燕を取り出し、発酵して液状になったその内臓を、肛門より啜る、というもの。
想像しようとしたら、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」中の8章、「鳥を捕る人」を思い出していた。
「鳥を捕る人」は、鷺だか雁だか、沢山の鳥をすいすい捕まえては、袋に詰める、鳥捕りを生業にしている、悲哀のあるおじさんとの絡みのエピソードだ。鳥は干すとか埋めるとかして少しすると、食べられるようになる。物語中、それは甘い菓子のような味だが、「キビヤック」とよく似ていると思えてならない。
おじさん→イヌイット、袋→アザラシ、鳥→海燕、菓子→発酵食品、という具合だ。
「銀河鉄道の夜」とイヌイットの間に、他にも共通点があるに違いないと考えた・・・あった。ラッコだ。「ラッコの毛皮がくるよ」だ。(ザネリという少年が主人公ジョバンニをからかって言うセリフ)ジョバンニの父親は北の海で漁をしているという設定だが、ラッコの毛皮といえば、アイヌやイヌイットの伝統的な防寒着である。ラッコ漁うんぬんの時代背景だけでなく、宮沢賢治の作品性からして、自然と共生する彼らの生活様式が物語に影響していると見ても差し支えないだろう、すると、やはり、あの「鳥を捕る人」の下敷きとなったのは、「キビヤック」であったに違いない、食べることはできそうにないけど、こんな話、酒の肴になりますでしょうか。

投稿者 noz : January 29, 2004 11:15 PM
コメント