September 30, 2003

ドミニカという店

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車一台通れない路地にある。
餃子とアルコオルだけの店、店内に品書の類は一切ない。
高いとも安いとも聞く、旨いとも聞く、妖しいとも聞く、とにかく凄いのよと聞く。
地元古河の、予てから気をそそられていた一軒、餃子「ドミニカ」を訪ねた。

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客は私達夫婦だけだった。民芸調の店内は、看板の後のように殺風景で、暗い。
引っ越しの直前、といった雰囲気だ。
店に入るなり「何人前?」と聞かれた。「二人前」。私は面食らったが、夫がさらっと答える。
このやりとりはこの店のセオリーと、人に聞いたのが咄嗟に役に立ったのだ。
「どうも。近所の人に旨いから行ってみなって言われたモンで」ますますナイスな挨拶である。
テーブルには水差しと冷タンふたつ。醤油と酢とラー油。
穴蔵の中みたいに静かだ、と微かに有線放送の音が聴こえる。
チャゲ&飛鳥の古い甘い曲が流れている。緊張して耳を傾けていないと掻き消えてしまいそうな、
静けさとの間の微妙なバランスを保った見事なボリュウム調整。老舗のバーもかくやと感心する。
(写真の手前にいるのは私。困ったことなど何もなかったが、なぜだか困った表情をしている)
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厨房には業務用の縦型冷蔵庫がひとつ。ガステーブルがひとつ。
ステンレスが厨房の蛍光灯を冷たく反射している。
とうに定年を過ぎたと思われる御夫婦の、だんなさんが使う鉄板とへらのかち合う金属音、
おかみさんがばらばらと広げる新聞の日常音も、響く。
(写真左手前の茶色い部分が新聞を広げるおかみさんの頭、右奥のステンレスには、
餃子を焼くだんなさんの像がぼんやり映っていた)
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ややあって、餃子が運ばれてきた。
皮は厚めの小さめで、表面はたっぷりの油できっちり焼かれて香ばしい。
中はつるっ、もちっ、の歯ごたえで生地の香りもよく、あんもニンニクが効いてパンチがある。
見栄えのしない盛り付けではあるが、おいしい。
「皮は手作りなんですか?」と聞いてみた。おかみさんの顔は新聞の向こうで見えないが、
即座に「そーです」と、一本調子の答えが返ってきた。
一見で物珍しそうに質問を浴びせる客は、嫌われてもまあ仕方ないのだが、
ここで挫けてはBe-eaterの名折れだから、続けて質問する。
「ここって、何年くらいになるんですか?」
「ハア?」とおかみさんは新聞の壁から首を傾げて、声を高くした。慌てて聞き直す。
「こちらのお店は、何年くらい営業されているんですか?」
おかみさんは、「43年」と、事も無げに言った。
43年!私達は絶句した。御夫婦と街の年齢に応じて43年間変化し続けたと考えれば、
この店のあり方って、ひとつの完成形に限りなく近いのかもしれない、なんて思った。
此処は私達の知る最もミニマムな店と云えそうだ。
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餃子を食べ終えた私達は間を置かず店を出た。
わずか15分程の滞席だったが、客は他に入って来なかった。
路地を出たところで振り返ると、闇夜に小さな灯りが浮かんでいた。
「一杯飲むのにいい店だね。今度はそうしよう」と夫が言った。
なんだかふわふわした不思議な心持ちだ。
口にニンニクの香りが残っていなければ夢と思ってしまいそう。

餃子二人前のお値段は、500円。

投稿者 noz : September 30, 2003 12:50 PM
コメント

うわ。そうだったんですかそうですよね、次回に活かします。生ビールも飲もうかな。
此処のビアサーバーは、提供する量だけ冷却水に通して冷やす現在主流のタイプではなく、昔あった、生樽を丸ごと冷やす、冷蔵庫にサーバーがくっ付いた感じのものでした。

Posted by: noz : September 30, 2003 08:52 PM

古河ってところにも、とんでもない店があるのですね。

店主の「何人前?」という質問を類推するに、この店のスタンダードは一人2人前以上なんでありましょうね。

昔、大阪の眠亭とかいうところで、皆、二人前を注文するということを覚えました。

Posted by: aki : September 30, 2003 08:13 PM